症例紹介

身体表現性障害症例

胃カメラやCTでも何の問題もないって言われたんです。

 

憂うつな気分になるとか、眠れないとか、幻聴があるだとか、そういった症状があれば、多くの場合心療内科や精神科を受診し、治療が行われます、ところが一見、心の病気とは思えない症状で苦しんで、たくさんのクリニック、病院を受診されていたり、様々な検査を行っても原因がわからない、と治療が進んでいない事があります。

 

六月の梅雨に入る直前の頃でした、ご主人に付き添われ50歳前後の女性が受診されました。困っているのは、吐き気と胸やけで、検討違いな受診かもしれないんですが、と、ご主人は大変恐縮されていました。ご本人はというと、化粧っけのない地味でおとなしい印象の方で、「眠れない事もないし、家事はできているし、生活には何も困っていない、ただ胸がつかえるような感じが続き吐き気もずっとある、しかし実際に嘔吐した事はない、ただ吐き気があるから食事があまりとれず、この二ヶ月で7キロも痩せてしまった」との事でした。内科の受診歴をお聞きすると、近くのクリニックから始まりいくつかの大きい病院の名前をあげられ、「血液検査はもちろん、エコーもやってみました、最終的には、胃カメラやCTでも何の問題もないって言われたんです」と徐々に早口になりながらお話になられました。

 

こんな風に体の不調が続き、受診や検査をしても原因がわからず、症状も軽減しないと、誰もがイライラするものですが、そういった範囲をこえた焦燥感を問診中に感じ取ったのと、器質的には何も問題がなかったという事から、身体表現性障害もしくはうつ病の身体症状と判断し、ごく少量の精神科薬を処方しました。外来治療ですので、どうしても副作用が気になる事もあり、少なめの薬でスタートしたので、副作用が出ない事を確認したら来週の受診の時に増量しようと思っていました。

 

翌週のわたしの外来日は梅雨入りし雨が降っている事も手伝ってか、調子の悪い患者さんが多く、わたし自身も少しずつ気が重くなりつつ、先週受診された胃の不調を訴えていた女性を診察室へ呼び入れました。わたしは(調子がさらに悪くなって代わりに妹さんがみえた)と思ってしまったほどに見違えた、化粧をきちんとし先週より5、6歳若返った印象の女性が元気に診察室にはいって来られ、「嘘みたいに調子がよくなりました、先生ありがとうございました」と笑顔で握手を求められました。
その後数ヶ月で慎重に薬を減量し、通院されなくなりましたが、通院中にお聞きした話ではこの四月に息子さんが大学に入学され、家を出たという事でした、年齢的にも更年期ですし、うつ病になりやすい条件が重なっていました。

 

こんな風によくなられる方は正直に言って稀なんですが、こんな方がいらっしゃるから我々も頑張れます、この方は心療内科を卒業された後もインフルエンザのワクチンを打ちにきたり風邪をひいた時に受診したいただいたりして、わたしもパワーをいただいています。